2018.12.03

 

Traumerei Fabrikとは何者なのか。 – これまでやってきたこと –

 
みなさんこんにちは、Traumerei Fabrikの冷凍イナバPです。 冬コミのまえに改めて、ぼくがこのサークルで今やっていること、これまでやってきたこと、これからやっていくことを表明したいと思いたち文章を書きました。前編/中編/後編の3部立てという、少々長い文章になってしまいましたが、よろしければおつきあいくださいませ。 前編たる今回は、「Traumerei Fabrikとは何者なのか」と題して、ぼくたちがこれまで何を考えて制作してきたのかをおはなしします。

Traumerei Fabrikのはじまりと、フィロソフィー

Traumerei Fabrikは、楽曲を制作しているクリエイティブ・ユニットです。 私たちは2010年頃に発足しました。初めて出会ったのは、個人ブログで交流があったSkypeのグループでした。12人くらいいた中の2人が私と秋晴でした。個人ブログで交流があった、と言いましたが、私たちに直接の交流はなく、友だちの友だちというほぼ他人のような関係値からのスタートでした。 当時は秋晴が「大合奏!バンドブラザーズ」というゲームで楽曲制作をしていて、その楽曲を世の中に発表するときのデザインをスポット的に私が手伝うという、あくまで秋晴個人での制作という形だったと記憶しています。そのころは私もデザインに関して全くの無知で、秋晴の手伝いを通して自分の技量不足を感じ、デザイン書籍を読み漁り始めたきっかけになりました。 どの段階で私が正式にサークルに所属したのかはっきりとは覚えていませんが、2012年のコミックマーケット82で初めてCDをプレスして出すことに決めたころにはメンバーになっていました。その、プレスCDを出す、となったとき、初めて「Traumerei Fabrikはなにをするサークルなのか」ということを意識しました。当時のWebサイトにサークルについてこのような文章を載せています。
Traumerei Fabrik(トロイメライファブリック)は、様々なジャンルの音楽を制作している同人音楽サークルです。 サークル名の意味は”夢の工場”。寝ているときに見る夢、将来実現したい願望としての夢、さまざまな夢があると思います。私たちの音楽を通して、みなさまがいろいろな夢を思い描いてくださることを目指しています。 その目標のために、曲とともに物語を展開し、さらにパッケージに広げるなど、あらゆる要素から積極的にアプローチしております。「同人音楽」という制約の少なさを活かし、さまざまな事柄を設計していく工場でありたい―― 私たちTraumerei Fabrikは、”夢の工場”という理念を基に、これからも日々、挑戦を続けていきたいと思っております。
なんとも青臭い文章で恥ずかしい限りではありますが、この時考えたサークルの理念はいまでも変わらずにいます。

コンセプトがあること

コミケ処女作で初めてプレスCDに挑戦した、サークルとしては3作目の『トロイメライファブリック』は、ある日河城にとりが自分だけの工場を見つけた―というところから物語がスタートしています。やりたいことと自分の技術力の差が激しすぎて今見るとまったく伝わらないのですが……。

4作目の『Papyrus』は初めて特殊パッケージを手掛けたアルバムで、この作品もコンセプトに基づいて制作しています。デザイン的な拙さはもちろんおおいにあるのですが、この制作を通して「Traumerei Fabrikらしさ」のようなうっすらとした方向性が見えてきたので、個人的に思い入れの深いアルバムです。

5作目『ティルナノーグと刻の歌』はかなり悲壮なコンセプトなのですが、悲壮すぎるので表面に出すのはライトな部分だけにしよう、ということになり、実際に世の中に出たのはプロローグのみになっています。 Papyrusから3年ほど期間が空いたこともあってお互いのスキルがそこそこ伸びて成長を感じられるアルバムだったのですが、ほぼノー告知で頒布したためあまり知られていないアルバムとなってしまいました。 このアルバムに関しては、コンセプトの持っているポテンシャルを発揮しきれていないのでいずれまた新しい形で世の中に出したいなと思っています。

そして、昨年の夏コミでリリースした『Othello』は、自分たちにとっても、ようやくコンセプトアルバムとしてある一定の水準まで作れるようになったなと思う作品でした。正義と悪の二面性をオセロというモチーフに落とし込み、真空パックにすることで矮小化しました。自分が正義だと信じていること、あるいは悪だと信じていることは、断絶されたごく小さな世界のなかでの話であることを、パッケージングによって表現したのです。

と、このように、一貫して「コンセプトがあること」ということにこだわって作ってきました。

原作リスペクトと、コンセプトの意味

実を言うと、コンセプトを立てる意味について秋晴ときちんと話し合ったことはありません。いつもなんとなく「こういうことがやりたい気がする」と言い出して、じゃあとりあえず外に出せるような体裁くらいは整えるか、と進んでいくことが多いです。それでも毎回コンセプトにこだわるのには理由があります。 一番大きいのは「コンセプトがあったほうが自分たちが作っていて楽しいから」ということです。同人というフィールドをメインにしている私たちにとって、楽しいことはとても大事です。お仕事でご依頼頂いた案件はさまざまな制約のあるなかで最大限のパフォーマンスを追究する楽しさがありますが、それとはまた違った楽しさがあり、同人だからこそ経験できることだな、と感じています。 コンセプトを立てることは原作をリスペクトする良いアプローチであることも理由の一つです。もちろん、コンセプトがない作品を貶めているわけではありません。むしろ、変な理屈を考えずに「作りたいから作るんだ」という熱意がむき出しのものこそプリミティブな創作意欲だとすら思っているので、そういった情熱のある作品は大好きです。私たちも純然たる創作意欲のもとで動いていることにはかわりないのですが、どうせやるからには私たちにしかできないことがやりたいという思いから、コンセプトを大事にした作品づくりに力を入れています。 私たちがメインの制作の舞台としている東方Projectは非常に懐の深い作品で、結構無理のある設定でも許してくれる空気感があります。また、シリーズを通して日本固有のアニミズムがほのめかされていて、考察の余地が大きいのもやりがいのある部分です。これを、原作者であるZUN氏からの挑戦状だと勝手に都合よく解釈して、私たちなりの答えを作品にぶつけているのです。ちょっとひねくれてはいますが、私たちなりの原作への愛情、ということです。

同人音楽とデザイン

さて、サークルの舵取り係としてはそんな感じなのですが、つづいてデザイナーという立場からコンセプトがある同人音楽について考えてみました。 コンセプトがあるということは、同人音楽でありながら、作品が音楽とCD、およびケースにとどまらないということです。 ふつう、音楽を体験するとき、人はCDを買うかダウンロードするかします。2018年になったいまでも、同人即売会でやり取りされるのはまだまだCDが主流のように感じます。そのCDには、ケースがあり、ディスクが入っていて、ブックレットがついていたりいなかったりします。ブックレットにはCDのアートワークとトラックリスト、サークル名などが記載されていて、CDを再生機器やパソコンに挿入して音楽を聞きます。 作った曲を聞いてもらうという体験は、それだけで完結することです。けれども私には、それがとてももったいないことに思えるのです。仕事ではなく趣味として制作した楽曲をお金と時間をかけてCDにするのに、ただ曲を作ったから聞いてくれ、というだけなのはとても味気ないと感じました。だからこそ、デザイナーとして「同人CDを聞く」体験すべてを最適化していきたいと思ったのです。その答えがストーリーであり、コンセプトであるのです。CD一枚を通して、二次創作の小説や漫画を読み終えたときのような没入感が得られるようにディレクションしているのです。

というわけで、Traumerei Fabrikの雑用係として、デザイナーとして、Traumerei Fabrikとはどういうサークルなのかを考えてみました。体験を大切にしている、クリエイティブ・ユニットです。

改めて、よろしくお願いいたします。 次回は、Traumerei FabrikのVI(ヴィジュアル・アイデンティティ)を刷新した話をしたいとおもいます。いわゆる「サークルロゴ」の造形についてのおはなしです。おたのしみに。