2020.03.28

過去作のデザインについて。



みなさん、ご無沙汰しております。冷凍イナバPです。うららかな春の日、いかがお過ごしでしょうか。

ダウンロード頒布を開始します

詳細な日程は未定ではございますが、近日中にDL頒布を開始する予定です。現在関係各所と調整中ですので、詳報は決まり次第あらためて告知いたします。
DL版の頒布解禁に至った理由も含めて、一度「Traumerei Fabrikのデザインについて」をきちんとご説明しようかなと思い、この記事を書いています。とても長いですので、ぜひ日々の隙間で少しずつ読み進めていただければなと思います。

Traumerei Fabrikの作品として、「物質がない」こと

秋晴とも相当話し合ったのですが、DL頒布に関しては当初は完全に行わないつもりでした。弊サークルのコンセプト作品は実際に手にとって、開封して、触っていただくことも含めてすべてが作品だという考えのもとで制作してきたためです。
ただ、作品のいくつかは完売してしまい、ありがたいことに「再頒布を行う予定はないのか」というお問い合わせも少なくない数頂戴しております。特に昨年の夏コミで頒布した『ティルナノーグと永遠の歌』は、ぼくたちももっといろんな方に見てもらいたいと思っていました。とはいえコストの面で再版をかけることは容易ではなく、ダウンロードでの再頒布を決心した次第です。

この記事は、物質として触れられない方のために、少しでもご想像の助けとなるように書いています。もちろんすでにお手にとって頂いた方の、ある種の答え合わせとしてもお楽しみいただけるかなと思います。

そもそもTraumerei Fabrikはどういうサークルなのか

主にデザイン面での話ではございますが、過去に弊サークルについて述べた記事もございますので、未読の方で興味のあるかたはぜひ、ご一読くださいね。

Othello



Traumerei Fabrikは過去にも一度活動を休止していて、再開後第一作目がこのOthelloでした。
いまでこそコンセプトを大事にしていますが、Othelloの頃はまだ「こんなふうにしたらエモいし、商業では見れないような、同人だからできることやろうぜ」みたいな軽いノリでした。デザインにおいても「同人だからできる」を出発点にいろいろ考えたように記憶しています。

パッケージはそのものずばり、オセロ



見たまんまですが、オセロの駒がモチーフになっています。白い面と黒い面がある、というだけです。
特設サイトにも書いてあるとおりテーマ的には「正義と悪」ですが、Othelloの本質は「正義と正義」だと個人的には思っています。そして、その「正義と正義」ですらも、ある意味では閉じられた世界の中のことでしかないとも思いました。
真空パック装にしたのは、そんな閉ざされた狭い世界を表現したかったからです。本人たちにとっては大真面目な争いが一般流通可能な形にパッケージされる、というメタ視点での皮肉も込めています。

「光」によって変化する盤面





Othelloは盤面が特に気に入っていて、制作日数の都合でシルク印刷ではなくUV印刷になったのですが、これがいいマチエール感を出してくれました。こんもり乗った白インキのザラッとしたテクスチャがOthelloの雰囲気に合っていて、好きです。
ディスクが反射するスペクトルを生かしたねらいは、純粋に聖白蓮の髪のグラデーションのイミテーションであることと、見る角度によって色が変わる、つまりテーマである「正義と悪」を意味していることがあります。

幻想メトロ



ライナーノーツでも述べていますが、幻想メトロは随分昔からふわっとした概要だけ存在していて、大風呂敷が広がりまくっていた作品です。いざ作るとなって着地点を定めるのに苦労しましたが、鉄道会社の開業プロモーションということで落ち着きました。
本当はデザイン面でもっともっとやりたいことがたくさんあったのでデザイナーとしては少なからず心残りもあるのですが、作品としてはまとまりのいいものになったのではないかなと思っています。

開業プロモとして





幻想メトロのロゴはCIのつもりで制作しています。シンボルマークとロゴタイプで構成されていて、実は特色やRGB、CMYK、グレースケール版といったようなカラーバリエーションや、アイソレーションの規定など、CIとして運用するためのレギュレーションも制作していました(かなり大雑把に作ってあり恥ずかしいのでお見せすることはできませんが笑)。



また、開業のプロモーションをする上で、「幻想メトロはどういう層に訴求していくんだろう」「移動手段としての鉄道を認知させるためにどういう広告をすればいいんだろう」ということも考えました。こちらも実際は使わなかったのですが、おおまかに3パターンの訴求対象に向けたキャッチコピーなども用意していました。このキャッチコピーは、イラストのディレクションにおいて役に立ってくれました。キービジュアルとともに、各キャッチコピーを意識したイラストの力がデザインに大きく寄与してくれています。
幻想メトロの特設サイトでは、各訴求対象ごとの利用シーンをイメージしたセリフも掲載しました。

列車に乗る一連の動作を想起させるためのパッケージ





パッケージは列車に乗るシーンを思い描きながら落とし込んでいます。まず最初、横に長いデジトレイのCDケースは、駅改札外の連貼りの広告を表現。そして次に手に取るライナーノーツは回数券をイメージしていて、最後、CDは、駅に入ってくる列車のヘッドマーク。曲を聞くタイミングでまさに列車に乗るような、そんな一連のストーリーを意識しています。
全体的なトーンとしては、「単純明快」が意識としてあったのであまり難しく捉えずわかりやすいデザインを意識しています。一方で、幻想郷に鉄道ができたとしても絶対にモダンなものにはならないだろうという確信があったので、やや古臭く感じるようなレトロさもねらっています。

ティルナノーグと永遠の歌



この作品はとにかく「物質としての価値」を高めたかったです。Traumerei Fabrikというサークルの方向性を示すためにも、内容的な強度に負けないくらい強い「ガワ」が必要だという直感があったのです。音楽業界全体がDLやサブスクリプション優勢となっていく潮流で、同人もDL頒布へと追従していく中、モノとしてほしいと思ってもらえるかの勝負だと思っていました。

あなたの東風谷早苗は?がテーマ



Traumerei Fabrikの描く東風谷早苗をある程度提示した上で、特定のキャラクターを改めて掘り下げてみませんか?という問いかけがしたかった今作では、パッケージにおいてもあくまで「起承」しか反映させないように気を使いました。
上記のディレクション資料のとおり、物語のコアとなる部分のみを抽出しています。ケースは「海」、それは理想郷(ティルナノーグ)であり、幻想郷であります。ケースを「海」と見立てることによって、音楽を聴くときに早苗は必ず海(=幻想郷)の外にいるという状況を生み出したかったのです。

夏、里帰り、という爽やかなモチーフに違和感をもたせる



東風谷早苗というキャラクターを掘り下げてもらうために、全体を通して違和感を抱くようなつくりにしたいというねらいもありました。そのためのキービジュアル、そしてティザーサイトでした。
ライナーノーツでも触れていますが、キービジュアルの早苗さんの表情はかなりのリテイクを重ねていただきました。おかげさまで、時間のない中で圧倒的に説得力のある顔になったと思います。その表情をティザーではあえて隠し、グリッジさせるという不穏さを演出しました。

ブックレットにグレーの紙を選んだこと



本文用紙に「ディープマット ミストグレー」という紙を採用しています。これはコントラストを低くすることで視覚的に没入感が高まることを期待しています。また、物語のキーワードとして荒廃、再生、理想と現実、などがあったので、その表現も担っています。
その他、特設サイトには詳しい印刷仕様も掲載しているので、興味のあるかたはぜひチェックしてみてください。

おわりに



まとめの前に、じつは、ティルナノーグと刻の歌のリメイク版をしれっと頒布しています。この作品……お手にとっていただけた方はわかると思いますが、デザイン頑張っています。この記事で初めて世の中にビジュアルを出したのですが、かずまさんにイラストを描き下ろしていただいています(出てなくてすみません)。
刻の歌リメイク版に関しては、まあこのくらいの露出度なのが作品として一番エモいかなあと思いつつ、音楽もめちゃくちゃ良くなっているので、いろんな方に手にとっていただきたい気持ちもあります。トリミングされていない全体画像はぜひ本物を入手してみて……といいたいところですが、いまは公式通販もお休みしているので、気長に待っていてください。

さて……改めて、ダウンロード頒布をすることについて、やはりTraumerei Fabrikとして葛藤がないわけではありません。ここまでご説明してきたとおりモノとしてもこだわって作っているので、叶うことならばちゃんとモノとしてお届けしたいなという気持ちもあるのです。ただ、サークルメンバーとして秋晴の音楽がこのまま埋もれていってしまうのはあまりにも惜しく、こうしてダウンロード頒布を決意した次第です。この記事を通して、少しでもぼくたちの思いが伝わるといいなと願っています。

P.S.

ぼくたちTraumerei Fabrikは休止中ではありますが、あいかわらず四方山話はダラダラと続けています。これまでのアルバムもこうした雑談から妄想が広がってできたものばかりだったので、この温度感で話しているうちにまたなにかおもしろいことを思いついたら作りますね。
とはいえ、以前活動休止した時は再開まで4年ほどかかっています。そのあたりの詳しい話は、とろめラジオで語っているので、興味がある方はぜひ聞いてみてください。

OthelloからCOURTRITUAL #4、そして『不思議の在り処』まで駆け抜けた3年間でしたが、振り返ってみた感想としては、ぼくらにしてはややハイペースだったかなというのが正直なところです。すごく楽しかったけどちょっと急ぎすぎた感もあって、でも創作意欲ってそういうもんだよなって思います。ぎゅっと詰め込んで頑張ったおかげでいろんな人にTraumerei Fabrikを知ってもらう機会も増えたという手応えもあります。
ティルナノーグと永遠の歌で、Traumerei Fabrikが二次創作としてやりたかったことが比較的高い水準で達成できました。それと同時にコンセプトもネタ切れになってしまったので、やりたいことができたらまたやります。また4年くらいかかるのか、はたまた来年あたりにしれっと復活しているのかはぼくらもわかりませんが、その時がきたらまた暖かく迎え入れていただければなと思います。

こんなに長くなってしまった文章を最後まで読んでくださってありがとうございました。世の中はいろいろと物々しい雰囲気になっていますが、どうぞ健やかに、またお会いできることを祈っております。それではみなさま、ごきげんよう。