01風祝の少女
東風谷早苗という少女は、予想通りというか、予想に反してというか、いたって普通の少女だった。
田舎の女の子として、普通に育ったし、普通に暮らしていたし、常識的で現代的な生活を享受していた。自分自身が風祝という立場を継ぐと決まっていたし、そのために必要な知識や作法、立ち居振る舞いだって教えられたが、それはそれとして割り切れていたし、周囲もそれはそれとして、普通の付き合いをしてくれた。だからこそ、東風谷早苗はいたって普通の少女だった。
だけど、そんな普通も長くは続かないようだった。人々が科学の文明の力を得てから、ずいぶんと時が流れた。その流れの中で、非科学的な事象は「迷信」として世の中から徐々に排斥されていった。誰かが存在を信じることによって生きている妖怪たちにとって、現代というのは住みづらい場所へと変わっていった。風祝の子が仕える守矢神社もまた、例外ではなく。
――幻想郷へ移り住むという決断は、普通の少女には持て余す大きさだったけれど。風祝としてはそれが自然な選択だった。
そうして東風谷早苗は幻想郷の住人となり、ほうぼうでいろいろな珍事を巻き起こしたのはご存知のとおり。こちらの世界では、「一風変わった少女」としてその存在を受け入れられている。そうしていくつかの四季が過ぎ、現代のことも良き思い出として許容できるようになってきた頃、その言葉は唐突に投げかけられた。
「里帰りできると言ったら、する?」
そう言った本人――八雲紫の表情は、逆光に遮られて、ついぞ拝むことはできなかった。