2018.12.25

C95 頒布物のごあんない

おまたせいたしました。C95の頒布物が出揃いましたので、おしらせいたします。新譜もありますよ〜!

  • 幻想メトロ 1000円
  • COURTRITUAL #2 300円
  • COURTRITUAL #1 300円
  • Othello 1,000円
  • ティルナノーグと刻の歌 500円
  • Papyrus300円
  • トロイメライファブリック 300円
です、よろしくおねがいいたします。 当日はこちらのポスターを目印にお越しくださいませ。



それでは、スペースにてお会いできることを心待ちにしております……!

2018.12.13

VIを刷新しました。
– いまやっていること –



みなさんこんばんは、Traumerei Fabrikの冷凍イナバPです。

前回は、「Traumerei Fabrikとは何者なのか」と題して、ぼくたちがこれまで何を考えて制作してきたのかをおはなししました。
3部立ての中編にあたる今回は、2017年に刷新したサークルのVIについてのおはなしをしようと思います。

VIを刷新しました。

さて、C92からサークルのVI(ヴィジュアル・アイデンティティ)を刷新いたしました。すでに頒布物やスタッフTシャツとして定着させています。とはいえ、作品のコンセプトや時代の潮流によっては細かい頻度でアップデートしていこうと考えています(具体的には、新しい作品を出すたびにVIも見直したいと思っています)。この頻度は通常のCIやVIの考え方からは受け入れづらいことだと思いますが、同人というフィールドだからこそやってみる価値がある、ような気がしています。

以前のロゴは、2011年か2012年頃に制作したものです。当時はAdobe製品を購入してすぐで、書体についても無頓着だったので、小塚ゴシック体の従属欧文であるMyriadをベースにしています。夢の工場をモチーフにしたロゴタイプです。

発想やアプローチとしては悪くないと思いますが、視認性の低さや取り回しの難しさから、新しくしたいと思っていました。

2015年に発表した『ティルナノーグと刻の歌』の際はVIに割く時間がなく、かつ既存のロゴは作品にそぐわないと判断したため、Gothamのスモールキャップを使用しています。これに関しては当時の自分に理由を聞きに行きたいくらい悪い判断でした。アイデンティティを変更する覚悟の伴わない、雑な意思決定だったと反省しています。

C92のリニューアルのタイミングも、Othello自体の制作や、私生活での環境の変化などからあまりVIに時間を使えなかったのですが、その中で考えていたことをご紹介したいと思います。

タイプフェイスについて

VI刷新にあたってまず始めたのは、ロゴタイプの検証です。
ロゴタイプはVIの統一性をもたせるという点から今回は既存のタイプフェイスを用いて制作しようと考えていました。(いつかオリジナル書体も作りたいですね)
旧ロゴを制作するときに考えていた「工場のレトロさと未来感の共存」をうまく継承しつつ、新しく「スタイリッシュさ」「視認性の良さ」なども取り入れたいと思い、最終的に候補に残ったのは以下の3つの書体です。

  • DIN Next Condensed(Linotype)
  • Futura ND (Bauer Types)
  • Gotham (Hoefler & Co.)

DINはドイツ工業規格 (Deutsche Industrie Normen)のことです。Traumerei Fabrikの名前がドイツ語ということもあり、真っ先に候補に挙がった書体でした。工業規格の書体ということで、グリフの幅がほぼ一定で、無骨な印象です。

Futuraは世界でもっとも有名なジオメトリック・サンセリフのひとつで、ハイブランドのロゴタイプなどにも採用されているように、都会的で洗練された印象があります。

Gothamは比較的歴史の浅い書体ですが、最近は様々なところで目にするようになりました。もとはメンズファッション誌のために作られた書体で、「雄々しく、新しく、フレッシュに」というオーダーどおりの骨太な書体です。

3書体で「Traumerei Fabrik」と打ったとき、まず感じたのは文字の密度のばらつきでした。VIが正式表記と異なるのはどうなんだという気持ちもありつつ、見た目優先でオールキャップスにすることにしました。(正式はTraumerei Fabrikです)

そして、オールキャップスでベタ打ちしたものを並べたものが以下の画像です。

並べてみたとき、DINはやや没個性的で印象に残りづらいと感じました。また、Futuraはややおしゃれすぎるので、これもまた我々の想像する「夢の工場」とはちがった印象だと感じました。

文章ではさらっと流しましたが、それなりの紆余曲折を経て、Gothamをベースにロゴタイプの制作に取り掛かります。
Gothamをベースにと言いましたが、調整した比較画像のとおり、ほとんど元のグリフから変わりありません。

水色の線が調整前、ピンクの線が調整後のグリフです。
T / R / M / I / K の5つのグリフは変更なしです。
Aは重心をやや下げています。Bも重心を下げつつ、上部のボウルを大きくし、上下でシンメトリに見えるようにしています。この2文字は安定さを増す処理です。
Uはごくわずかですがアールをシャープにして、ややスッキリとした輪郭に調整しています。E / Fは安定感のあるもとのグリフのバーをやや左に縮めることで、密度感を調整しています。この3文字は、安定感はややなくなりますが、全体での密度調整をして風通しを良くしています。

ロゴマークについて

ロゴタイプのほかに、新しくロゴマークを制作しました。Traumerei Fabrikの頭文字「TF」を、4つの矩形のネガティブスペースで表現しています。(fig.1)

単純な矩形で表す、という決定をするのには大変な葛藤がありました。それでも、これでリリースすると決断したのには理由があります。

それは、ローファイな環境でも耐えうる点です。これは高解像度なディスプレイがメジャーになってきた今、時代に逆行している考え方かもしれません。ローファイを志向したのは、私たちのサークルの理念に基づいた判断です。

Traumerei Fabrikは「夢の工場」という意味です。夢と一言にいってもなかなか定義付けは難しいですが、将来に対する期待や目標というポジティブな言葉だと私は思います。つまり、私たちの作品を体験していただくことでポジティブな気持ちになれる、そんな作品を作る工場でありたいという願いが込められています。具体的なビジョンのある高解像度な夢を持っている方もいらっしゃる一方で、とても曖昧な、漠然とした「夢」しかない人もいるでしょう。私自身、具体的な夢もあれば、ぼんやりと「こうなっていたいなあ」と思っている夢もあります。そんな解像度の低い、ローファイな夢を持っていることは素敵なことだと思っていて、だからこそローファイなロゴマークを思い切ってリリースしました。あらゆる人の夢の工場でありたいという思いがあります。

矩形の配置は、まず正確に縦3等分、横5等分したグリッドを基準としました。(fig.2)
これはピクセルの概念です。前述のローファイを体現するべく、ディスプレイ上の最小単位である1dotを基準に採用したのです。ただし、実際に使われる際に3×5pxという極小サイズで表示されることはまず考えられません。そこで次に、実際に使用されるであろうサイズ感での視覚調整を施しました。やや縦に圧縮することで、正方形の矩形が視覚上きちんと正方形に見えるようにチューニングしています。(fig.3)

アセットの制作

さらに、アセットとして、一つのファイルにまとめて、サークルメンバーの誰でもアクセスできるようにまとめました。

このファイルも、都度更新をして使いやすくしていきたいと考えています。


上記のような作業を経て、とりあえずのVIが完成したわけであります。そして前述の通り、これからも少しずつリファインを重ねていく気でおりますし、ある日いきなりガラッと変えてしまうかもしれません。これはブランディング的な観点からはありえないことだと思いますが、同人活動であるということで、ぜひお目こぼしいただければ幸いです。

次回は、Traumerei Fabrikとして今後どんなことをやっていくのか、どんなことに挑戦していくのか、というおはなしです。前編、後編に比べると短くなると思いますが、この機会に所信表明させていただければと思います。おたのしみに。

2018.12.03

 

Traumerei Fabrikとは何者なのか。 – これまでやってきたこと –

 
みなさんこんにちは、Traumerei Fabrikの冷凍イナバPです。 冬コミのまえに改めて、ぼくがこのサークルで今やっていること、これまでやってきたこと、これからやっていくことを表明したいと思いたち文章を書きました。前編/中編/後編の3部立てという、少々長い文章になってしまいましたが、よろしければおつきあいくださいませ。 前編たる今回は、「Traumerei Fabrikとは何者なのか」と題して、ぼくたちがこれまで何を考えて制作してきたのかをおはなしします。

Traumerei Fabrikのはじまりと、フィロソフィー

Traumerei Fabrikは、楽曲を制作しているクリエイティブ・ユニットです。 私たちは2010年頃に発足しました。初めて出会ったのは、個人ブログで交流があったSkypeのグループでした。12人くらいいた中の2人が私と秋晴でした。個人ブログで交流があった、と言いましたが、私たちに直接の交流はなく、友だちの友だちというほぼ他人のような関係値からのスタートでした。 当時は秋晴が「大合奏!バンドブラザーズ」というゲームで楽曲制作をしていて、その楽曲を世の中に発表するときのデザインをスポット的に私が手伝うという、あくまで秋晴個人での制作という形だったと記憶しています。そのころは私もデザインに関して全くの無知で、秋晴の手伝いを通して自分の技量不足を感じ、デザイン書籍を読み漁り始めたきっかけになりました。 どの段階で私が正式にサークルに所属したのかはっきりとは覚えていませんが、2012年のコミックマーケット82で初めてCDをプレスして出すことに決めたころにはメンバーになっていました。その、プレスCDを出す、となったとき、初めて「Traumerei Fabrikはなにをするサークルなのか」ということを意識しました。当時のWebサイトにサークルについてこのような文章を載せています。
Traumerei Fabrik(トロイメライファブリック)は、様々なジャンルの音楽を制作している同人音楽サークルです。 サークル名の意味は”夢の工場”。寝ているときに見る夢、将来実現したい願望としての夢、さまざまな夢があると思います。私たちの音楽を通して、みなさまがいろいろな夢を思い描いてくださることを目指しています。 その目標のために、曲とともに物語を展開し、さらにパッケージに広げるなど、あらゆる要素から積極的にアプローチしております。「同人音楽」という制約の少なさを活かし、さまざまな事柄を設計していく工場でありたい―― 私たちTraumerei Fabrikは、”夢の工場”という理念を基に、これからも日々、挑戦を続けていきたいと思っております。
なんとも青臭い文章で恥ずかしい限りではありますが、この時考えたサークルの理念はいまでも変わらずにいます。

コンセプトがあること

コミケ処女作で初めてプレスCDに挑戦した、サークルとしては3作目の『トロイメライファブリック』は、ある日河城にとりが自分だけの工場を見つけた―というところから物語がスタートしています。やりたいことと自分の技術力の差が激しすぎて今見るとまったく伝わらないのですが……。

4作目の『Papyrus』は初めて特殊パッケージを手掛けたアルバムで、この作品もコンセプトに基づいて制作しています。デザイン的な拙さはもちろんおおいにあるのですが、この制作を通して「Traumerei Fabrikらしさ」のようなうっすらとした方向性が見えてきたので、個人的に思い入れの深いアルバムです。

5作目『ティルナノーグと刻の歌』はかなり悲壮なコンセプトなのですが、悲壮すぎるので表面に出すのはライトな部分だけにしよう、ということになり、実際に世の中に出たのはプロローグのみになっています。 Papyrusから3年ほど期間が空いたこともあってお互いのスキルがそこそこ伸びて成長を感じられるアルバムだったのですが、ほぼノー告知で頒布したためあまり知られていないアルバムとなってしまいました。 このアルバムに関しては、コンセプトの持っているポテンシャルを発揮しきれていないのでいずれまた新しい形で世の中に出したいなと思っています。

そして、昨年の夏コミでリリースした『Othello』は、自分たちにとっても、ようやくコンセプトアルバムとしてある一定の水準まで作れるようになったなと思う作品でした。正義と悪の二面性をオセロというモチーフに落とし込み、真空パックにすることで矮小化しました。自分が正義だと信じていること、あるいは悪だと信じていることは、断絶されたごく小さな世界のなかでの話であることを、パッケージングによって表現したのです。

と、このように、一貫して「コンセプトがあること」ということにこだわって作ってきました。

原作リスペクトと、コンセプトの意味

実を言うと、コンセプトを立てる意味について秋晴ときちんと話し合ったことはありません。いつもなんとなく「こういうことがやりたい気がする」と言い出して、じゃあとりあえず外に出せるような体裁くらいは整えるか、と進んでいくことが多いです。それでも毎回コンセプトにこだわるのには理由があります。 一番大きいのは「コンセプトがあったほうが自分たちが作っていて楽しいから」ということです。同人というフィールドをメインにしている私たちにとって、楽しいことはとても大事です。お仕事でご依頼頂いた案件はさまざまな制約のあるなかで最大限のパフォーマンスを追究する楽しさがありますが、それとはまた違った楽しさがあり、同人だからこそ経験できることだな、と感じています。 コンセプトを立てることは原作をリスペクトする良いアプローチであることも理由の一つです。もちろん、コンセプトがない作品を貶めているわけではありません。むしろ、変な理屈を考えずに「作りたいから作るんだ」という熱意がむき出しのものこそプリミティブな創作意欲だとすら思っているので、そういった情熱のある作品は大好きです。私たちも純然たる創作意欲のもとで動いていることにはかわりないのですが、どうせやるからには私たちにしかできないことがやりたいという思いから、コンセプトを大事にした作品づくりに力を入れています。 私たちがメインの制作の舞台としている東方Projectは非常に懐の深い作品で、結構無理のある設定でも許してくれる空気感があります。また、シリーズを通して日本固有のアニミズムがほのめかされていて、考察の余地が大きいのもやりがいのある部分です。これを、原作者であるZUN氏からの挑戦状だと勝手に都合よく解釈して、私たちなりの答えを作品にぶつけているのです。ちょっとひねくれてはいますが、私たちなりの原作への愛情、ということです。

同人音楽とデザイン

さて、サークルの舵取り係としてはそんな感じなのですが、つづいてデザイナーという立場からコンセプトがある同人音楽について考えてみました。 コンセプトがあるということは、同人音楽でありながら、作品が音楽とCD、およびケースにとどまらないということです。 ふつう、音楽を体験するとき、人はCDを買うかダウンロードするかします。2018年になったいまでも、同人即売会でやり取りされるのはまだまだCDが主流のように感じます。そのCDには、ケースがあり、ディスクが入っていて、ブックレットがついていたりいなかったりします。ブックレットにはCDのアートワークとトラックリスト、サークル名などが記載されていて、CDを再生機器やパソコンに挿入して音楽を聞きます。 作った曲を聞いてもらうという体験は、それだけで完結することです。けれども私には、それがとてももったいないことに思えるのです。仕事ではなく趣味として制作した楽曲をお金と時間をかけてCDにするのに、ただ曲を作ったから聞いてくれ、というだけなのはとても味気ないと感じました。だからこそ、デザイナーとして「同人CDを聞く」体験すべてを最適化していきたいと思ったのです。その答えがストーリーであり、コンセプトであるのです。CD一枚を通して、二次創作の小説や漫画を読み終えたときのような没入感が得られるようにディレクションしているのです。

というわけで、Traumerei Fabrikの雑用係として、デザイナーとして、Traumerei Fabrikとはどういうサークルなのかを考えてみました。体験を大切にしている、クリエイティブ・ユニットです。

改めて、よろしくお願いいたします。 次回は、Traumerei FabrikのVI(ヴィジュアル・アイデンティティ)を刷新した話をしたいとおもいます。いわゆる「サークルロゴ」の造形についてのおはなしです。おたのしみに。