TRFB1011

INFORMATION

TRFB1009 “ティルナノーグと永遠の歌”
Released on 2019.08.12
Comic Market 96 特設サイト↗



STORY

東風谷早苗という少女は、予想通りというか、予想に反してというか、いたって普通の少女だった。

田舎の女の子として、普通に育ったし、普通に暮らしていたし、常識的で現代的な生活を享受していた。自分自身が風祝という立場を継ぐと決まっていたし、そのために必要な知識や作法、立ち居振る舞いだって教えられたが、それはそれとして割り切れていたし、周囲もそれはそれとして、普通の付き合いをしてくれた。だからこそ、東風谷早苗はいたって普通の少女だった。

だけど、そんな普通も長くは続かないようだった。人々が科学の文明の力を得てから、ずいぶんと時が流れた。その流れの中で、非科学的な事象は「迷信」として世の中から徐々に排斥されていった。誰かが存在を信じることによって生きている妖怪たちにとって、現代というのは住みづらい場所へと変わっていった。風祝の子が仕える守矢神社もまた、例外ではなく。

――幻想郷へ移り住むという決断は、普通の少女には持て余す大きさだったけれど。風祝としてはそれが自然な選択だった。

そうして東風谷早苗は幻想郷の住人となり、ほうぼうでいろいろな珍事を巻き起こしたのはご存知のとおり。こちらの世界では、「一風変わった少女」としてその存在を受け入れられている。そうしていくつかの四季が過ぎ、現代のことも良き思い出として許容できるようになってきた頃、その言葉は唐突に投げかけられた。

「里帰りできると言ったら、する?」

そう言った本人――八雲紫の表情は、逆光に遮られて、ついぞ拝むことはできなかった。

TRACKS

  1. 風祝の少女
  2. 流るる星と波の音
  3. 燃える朝日と鳥の声
  4. 揺れる架線と映す水
  5. 朽ちた校舎と軋むドア
  6. すさむ社と留守の神
  7. 鳴かぬ世界と秘めた誓い
  8. ティルナノーグと永遠の歌

STAFF

Composing(M1), Arrangement(M2-8)
秋晴
Design,
Development,
Storytelling
冷凍イナバP
Illustration
かずま
Mixing,
Mastering
憂鬱
Original
ZUN(上海アリス幻樂団

LINERNOTES

「ティルナノーグと永遠の歌」をお手にとっていただきありがとうございます。音楽を担当いたしました秋晴と申します。

「ティルナノーグと刻の歌」という過去作をベースに1から作り直した作品が今作「ティルナノーグと永遠の歌」となっております。音楽的には前作を知っていればニヤリとするところもあるかとは思いますが、基本的に全て新曲です。「ティルナノーグと刻の歌」にはいろんな感情があり、一言では言い表せないんですが、一番強い感情は後悔の念が強い作品でして。我々の力不足な部分が大きく、「ポテンシャルはあるコンセプトなんだけどなぁ」と心にしこりを残したまま4年が経つこととなりました。その間僕たちも色々と成長した部分があり、「今の僕たちがティルナノーグをやったらどうなるだろう?」と考えるのは自然な流れでした。ゼロベースからの楽曲制作でしたが、なんとか頭の中のストーリーを無事に楽曲に落とし込めたのではないかなと思います。

今作のイメージの1つとして「海」というものがあります。幻想郷には「海」がありません。そして舞台となった早苗さんの故郷も「海」がない土地です。そんな彼女の世界に今まで無かった「海」が現れた。ここで単純に水着ではしゃぐ早苗さんの作品にならない所が我々の癖でして。しばしば「海」はいろんな意味を持ちます。「夏」「陽気」といった明るいものから「静か」「寂しい」といった暗いもの、更には「生命の根源」「人間には御せない自然の力」といった壮大なものまで。今作に登場する「海」にも意味を持たせています。そのあたりの話はまたいつかお話できたらと想います。

語りたいことは山程あるのですが、コンセプトの内容についてはこれくらいにして。今作を手にした方が、より東方projectを好きになっていただけたら、1ファンとしてこれほど嬉しいことはありません。と、言いながら、今作の音楽に関して言えば意図的に原曲の要素をあまり残さないようにしています。「こんなの東方の2次創作じゃねぇ!」という考えを抱く方もいらっしゃると想定はしていますが、ぜひ温かい心で僕たちの同人音楽、そして2次創作への挑戦を感じていただけたらなと思います。

音については「幻想メトロ」から引き続きミックス/マスタリングを憂鬱さんにお願いさせていただきました。制作が後ろ倒しになり締め切りをがっつり過ぎての素材提供となり、とてもとても迷惑をおかけしました。おかげで作品が完成することができ感謝しきれません。この場を借りて謝罪とお礼を申し上げます。

前述したとおり、今作は4年前の自分たちの作品への贖罪と、そして同人音楽というジャンルへの挑戦でもあります。東方projectのファン、同人音楽というジャンルが好きな方、そして4年前の自分たちへ、この作品が届くことを願って。

これがリメイクなのか続編なのか自分たちの中でも曖昧なのですが、『ティルナノーグと刻(とき)の歌』に続くシリーズが本作、『ティルナノーグと永遠(とわ)の歌』です。

曖昧といったのは、刻の歌も永遠の歌も全く同じストーリーの上に成り立っているからです。幻想郷は楽園で、そして早苗のいなくなった現代は荒廃する、この物語はどちらも共通です。

刻の歌の時点で考えていた結末は、崩壊した現代を見た早苗が失意に暮れるというあまりにも暗すぎるものでした。それ故に、刻の歌はただの帰郷の部分しか語らないという見せ方をしています。そのときのメモに「ただし、これだけだと伝わらないのでいつか解説本みたいなのを出したい」とあります。本作は解説本ではないですが、物語の骨の部分はわかりやすくなったのではないでしょうか。

刻の歌から踏み込んだ部分として、早苗が実際に荒廃した現代を歩き、何を感じ、何を考えたかを、書き下ろしの文章で表現しました。コンセプト以外のストーリーを書いたのなにげに初めてでした。どうでしたかね……?

とはいえ、この作品は起承転結でいう承までしか語っていません。これは意図的なもので、この先はみなさんの中の早苗さんに委ねたいからです。制作中、ぼくも秋晴も意識してこの先を考えないようにしていたので、ぼくたちでさえどうなるかわかってません。ティルナノーグの三次創作が見たい……!

かずまさんには今回もお世話になりました。早苗さんの表情なんかはめちゃくちゃ細かくダイレクションをしてしまったのですが、曖昧なニュアンスを汲み取って、時にはかずまさんからも提案をしていただき、さすがの一言に尽きます。イラストの力によってぼくたちのなかでの世界の確度を高められたと感じる瞬間ってすごく好きです。

憂鬱くんもありがとうございました。ぼくは音のことはあんまりよくわかってないので秋晴とのやり取りを横から見てるだけだったんですが、やりとりごとに確実に良い音楽になっていっててすごいなあと思いました。はい。

それから最後に4年前の自分へ。サブカルチャーの体現なんておこがましいことは二度と言わないように。でも刻の歌で考えてたことは無駄じゃなかったと思います。

それでは、またお会いできる日まで。